さよならうさぎ山

 


 昔、ある所に、うさぎ山という名前の山がありました。うさぎ山には、たくさんのうさぎがすんでいました。
 うさぎたちは、みんな仲良しです。毎日、うたを歌ったり、ダンスをしたり……。仲良く楽しく過ごしていました。

 ある日、この山に人間が迷い込んできました。
 「何日も山の中で迷っていたのだ」と人間は言いました。
 「何も食べていないのでお腹がペコペコだ」と……。
 うさぎ達は、蓄えてあった木の実のご馳走をこの人間に分けてあげました。お水のある場所も教えてあげました。
 「ありがとう、ありがとう、おかげで本当に助かったよ」と、嬉しそうな人間の顔を見てうさぎたちはとても嬉しくなりました。
 人間が山を下りる時に、もう迷子にならないようにと、小さな女の子のうさぎが付いていくことになりました。

 うさぎ うさぎ 小さな うさぎ
 ピョンピョン はねる
 長いお耳も 一緒に はねる

 山から下りた女の子のうさぎは、うさぎ山にはもどりませんでした。何故なら、恐いと思っていた人間が、美味しい木の実をご馳走してくれたり、人参をたくさんくれたり、楽しい話をしてくれたりと、とても優しいことがわかったからです。

 優しい人間のあたたかな気持ちに包まれて
 こころ ほんわか ピンク色
 いつの間にやら
 身体もほんのり ピンク色

 山から下りた女の子のうさぎは、ピンクのうさぎと呼ばれて、みんなからとても愛されて暮らしていました。
 女の子のうさぎが、幸せに暮らしていると風の便りに聞いたうさぎ山のうさぎたちは、みんな自分のことのように喜びました。

 長い雨の日が続きました。
 うさぎ山にもたくさんの雨が降りました。
 ある日、太った人間が山に登ってきました。
 「雨が続いて家が流れた、食べる物もなくなってしまった」と、泣きながら、山を登ってきました。

 お家がないのは おきのどく
 お腹がペコペコ かわいそう
 せめてお腹のたしにでも
 なればいいねと うさぎたち
 ピョンピョン 山をはねまわり
 きのこや木の実を集めたよ

 お家を流された人間は、うさぎたちが差し出した珍しいきのこや木の実をとても喜びました。
 「ありがとう、ありがとう、これは隣村では貴重な品だ、売れば暮らしの足しになるだろ、助かった。」
 何度もお礼を言って、山を下りて行きました。
 その時、小さな男の子のうさぎが人間の後を付いてゆくのに誰も気付きませんでした。その小さな男の子のうさぎは、人間と一緒に暮らしているという見たことのないお姉さんうさぎに逢いたくて、こっそり山を抜け出したのです。

 ピョンピョンピョン
 もうすぐ 逢えるよ 姉さんに
 姉さんうさぎは ピンク色 優しい人に囲まれて
 幸せ一杯 夢一杯
 僕も姉さんと同じで
 幸せになれるといいな なりたいな
 ピョンピョンピョン
 もうすぐ 逢えるよ 姉さんに

 家を流された人間は、山を下りるとすぐに隣村に出掛けました。
 隣村には暮らしの豊かな人たちがたくさん住んでいて、珍しいきのこを見せると、流された家が3回くらい建てられそうな値段で買ってくれました。木の実を見せると、見たこともないようなきれいな布と交換してくれました。

 山のきのこは 金になる
 山の木の実は きれいな布に
 家を流され 一文無しが
 金の成る木を見つけたぞ
 もうすぐ 金持ち 大金持ちだ

 家を流された人間は、きのこを売ったお金で新しい家を建てました。以前より立派な家です。それから、食べ物もたくさん買いました。きれいな布で服もたくさん作りました。それでも、もっと、珍しいきのこが欲しくなって、前よりも貧しそうなふりをして山に登って行きました。
 その頃、小さな男の子のうさぎは泣いていました。「うさぎだ、うさぎだ」と子どもたちに追い掛けられて迷子になってしまった上に、「よくも畑を荒らしたな」と耳を引っ張られたり、蹴られたり、涙ポロポロ身体ボロボロ、真っ白な身体が、だんだん蒼い色に変わって行きました。

 だれもが優しい人じゃない
 人間は 恐いよぉと
 涙 ポロポロ 零れます

 貧しそうなふりをした人間は、うさぎたちに出会うと、悲しそうに言いました。
 「うさぎさん、うさぎさん、この間はありがとう珍しいきのこをありがとう、美味しい木の実をありがとう、だけど、私達貧しい者は、あれっぽっちじゃ暮らしてゆけぬ、どうかあわれと思って、いますこし、いますこし余分にきのこと木の実を分けて貰うわけには行かないだろうか」
 うさぎ山のうさぎたちは、前に逢った時よりも、もっと貧しい身なりの人間をみると、かわいそうに思って、前よりもたくさん、珍しいきのこや木の実を集めてきて、人間に渡してあげました。
 貧しそうなふりをした人間が、うたいながら山を下りてゆきます。

 金の成る木を見つけたぞ
 山のきのこは 金になる
 山の木の実は きれいな布に
 金の成る木は 俺の物
 誰にもわけてやるもんか
 もうすぐ 金持ち 大金持ちだ

 その歌声は、うさぎたちの耳に入りました。
 うさぎたちはとても悲しくなりました、小さなうさぎも、大きなうさぎも溢れる涙で、真っ赤な目をしています。
 「ずっと ずっと 好きだよ」
 「さよならうさぎ山」
 声にならない言葉は、こぼれ落ちる涙とともに、大地に吸い取られてゆきました。

 貧しいふりした人間は行方知れずになりました
 蒼いうさぎが消えました
 うさぎ山に住んでいたたくさんのうさぎたちも消えました
 山にきのこは、生えません
 山で木の実は、採れません
 誰も山には登れません
 うさぎのお山は消えました
 消えた山には登れません

 風に乗って仲間たちの声が、ピンクのうさぎの所へも届きました。
 うさぎ山の兎は、ピンクのうさぎただ一匹になってしまいました。
 ピンクのうさぎは泣きました。仲間たちの為に泣きました。お山の為に泣きました。

 遠い昔に、うさぎ山と言うお山があってね……

                                          おしまい。


☆このお話は、1998.8.19に書いたお話です。 
 サークル《COTTON CANDY》創刊号に載せて頂きました。

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